第38回日本語弁論大会

出場者26人が明日に向かってさまざまな経験を語る

26人の日本語弁論大会出場者 on March 23, 2024

 第38回日本語弁論大会が3月23日、在シカゴ総領事館広報文化センターで開催され、日本語を学ぶ学生26人がイリノイ、インディアナ、ミネソタの3州から参加し熱弁を振るった。スピーチの内容も、経験による自らの発見、環境や街づくりへの意識、人生観など若者らしい視点が弁論に表され、興味深い弁論大会となった。

 日本語弁論大会は第1カテゴリー(小中学生)、第2カテゴリー(高校生)、第3カテゴリー(大学生)の3つに分けて開催される。各々のスピーチの後には審査員から日本語で質問があり、スピーチ内容を本当に理解しているかどうかも試される。流暢な日本語で話すだけでなく、スピーチとしての質が総合的に評価される。

 同弁論大会は在シカゴ総領事館、シカゴ日本商工会議所、シカゴ日米協会、シカゴ姉妹都市インターナショナル大阪委員会の共催で開催されており、多くの企業が協賛している。

 出場者にはグランドプライズ、姉妹都市大阪賞、1位、2位、3位、4位、シカゴ日米協会賞、イリノイ日本語教員協会賞、シカゴ総領事館広報文化センター賞が贈られる。

柳淳総領事

 挨拶に立った柳淳在シカゴ総領事は「日本語を学ぶことへの興味と熱意を育み、今日のコンテストに参加するために努力した出場者を見ることができて嬉しく思います」と26人の出場者を歓迎した。

 また、柳総領事は出場者を指導し勇気付けて来た先生達や保護者の労をねぎらい、同弁論大会の共同開催者、審査員、寄付者や協力者に感謝の気持ちを表した。

 さらに、エンターテインメントだけでなく精神力を鍛えるけん玉の実演のためにゲスト出演してくれたスィーツス・けん玉・ファウンデーションのジェイク・ウェインズ氏に礼を述べた。

 柳総領事は出場者に向かい、皆さんは日米友好の未来への希望を象徴しており、弁論大会の結果に拘わらず、将来は日本と中西部の架け橋となってくれることを願うと呼び掛けた。

 また、2024年は日米両国が初めて指定した「日米観光交流年」であることを紹介し、「今日の弁論大会で、グランド・プライズと姉妹都市大阪賞の受賞者は日本に行く機会を楽しむことになるが、この日米観光交流年の重要な時期に、また2025大阪-関西エキスポの時にも、皆さんには日本を訪問してもらい、皆さんの知識をぜひ試してみることをお奨めしたい」と語った。

 さらに総領事は、日本語の勉強を続ける皆さんには奨学金やJETプログラム、好調な日本のビジネス界など、将来に向けてさまざまな機会を検討することを奨めると呼び掛け、皆さんには日米の架け橋となり、両国の強い絆に貢献してくれることを願っていると語った。

けん玉を指導するジェイク・ウェインズ氏(左)と、チャレンジする出場者

 登壇した出場者は、緊張しながらも堂々と日本語でスピーチし、松原ふくみ審査員長の質問にも日本語で答えた。 

 弁論大会終了後にはジェイク・ウェインズ氏によるけん玉教室が行われ、ウェインズ氏の技に触発された出場者達が舞台に上がってけん玉にチャレンジした。

 その後に軽食が提供され、出場者は家族や友人と歓談しながら緊張をほぐした。

  その間に審査員による受賞者の決定が行われた。受賞結果は柴田勉領事/広報文化センター長から発表された。

 

受賞者スピーチ

グランド・プライズ

グランド・プライズを受賞したウィリアム・ヤンさん(中)と、柳淳総領事(左)、藤島浩一郎JCCC専務理事(JAL)

 グランド・プライズを受賞したウィリアム・ヤンさん(パーデュー大学)のスピーチは「いた。生きた。」

  ヤンさんは2年前、祖母や家族と一緒に先祖の墓を訪ねた。だが、墓地に登る坂道は生い茂った雑草や茨で行く手を阻まれ、近寄ることはできなかった。遠くから眺める10基の墓に誰が眠っているのか、総て家族の墓なのか、誰にも分らなかった。

  その光景は、ボロボロになるまで働き、死後は忘れ去られてしまう人々の事を思い起こさせた。何のために生き、何のために死んだのか、実りのない彼らの人生は愚かだったのか、そう思う自分こそが愚かなのかとヤンさんは思い巡らせた。また、まだ苦労を知らない自分が彼らのために何ができるのかと考えさせられた。

  ヤンさんは「二度と思い出す事が無い事を学ぶ意味があるのかと、誰もが一度は考えるだろう」と話す。そして「忘れてしまう知識に価値を見出せないのなら、忘れ去られる死者の人生に価値を見出せるのか?」と問いかける。

 学校で学んだ日本語を数年ですべて忘れた人は一人や二人ではない。だが学ぶ努力は人脈や経験を築く。努力は成果で計るものではなく、それ自体の価値によって評価される。過去は未来へと消えて行くかも知れないが、決して無意味にはならない。「ここに立ち、現在を経験する事こそが、自分が生きた証となる」とヤンさんは言う。

  人は死ねば肉体は滅び、葬儀後は生きている人々に思い出されるが、その人達もやがて死亡する。残した物語や書物を通して生きる人々もいるかもしれないが、どんなに影響力を持った人でも、生きた証は一つ一つ消えて行き、忘れ去られて行く。

 ヤンさんは「本当の死は、その人が忘れ去られた時だと思う。だからこそ我々は親愛なる人々を忘れないようにする義務がある。それが次世代を担う我々の役割。だから私はここにいる。だから私は忘れない」と力をこめる。

  ヤンさんの祖母は、唐辛子を収穫して大喜びする子供時代のヤンさんを忘れず、唐辛子を植えてヤンさんの帰郷を待っていた。

 今や腰が曲がった祖母は、もう農業はできない。真っ直ぐに伸びる若々しい植物とは対照的な祖母の姿を見るのは、ヤンさんにとって耐えがたい思いだった。

 今から40年も経てば、この祖母の話を覚えているのはヤンさんだけかもしれない。ヤンさんの次世代は祖母の顔も知らないだろう。「しかし、あの夏、私は祖母の傍にいた。自然に飲み込まれた墓場はいつしか忘れ去られる。その風景を目撃した私の存在も、いつかは忘れ去られるだろう。しかし、まぎれもなくその瞬間、私はそこにいた」とヤンさんは語った。

 ヤンさんにはJALより5万マイルのマイリッジが贈られた。

姉妹都市大阪賞

姉妹都市大阪賞を受賞したクライブ・ベネディクト・メンドザさん(左)と、シカゴ姉妹都市インターナショナル大阪委員会のフカサワ・ヒロミ氏

 姉妹都市大阪賞を受賞したクライブ・ベネディクト・メンドザさん(ノースサイド・カレッジ・プレップ高校)のスピーチは「シカゴの都市計画を改善する方法-人間性の受け入れ」。

 シカゴ市のノースサイド地域、アルバニー・パーク界隈で育ったメンドザさんは、平和な住宅地を描く一方、多様な文化が交錯する喧噪なローレンス・アヴェニュー沿いの商業地について話し「もっと経済活性化の恩恵を受けることができると思う。優れた都市計画は、アルバニー・パークとシカゴ全体の改善に役立つだろう」と本題に入った。

 メンドザさんは「米国各地では都市計画が進み、公共交通機関や住宅に関する環境保護主義へと導かれている」と述べ、ロサンジェルスでは鉄道システムの拡大により住宅地が連結され交通渋滞が緩和された事など、複数の例を挙げて説明した。そして「シカゴでこのような取り組みを取り入れることが、前向きな変化をもたらすと私は信じている」と語った。

シカゴの都市計画では、どうすればよいのか。メンドザさんは、特にアルバニー・バークのような地区では物理面と社会面の両面からの参入が必要だという。

 大掛かりな改善案はブラウンラインをオヘア空港まで延長する事など。特にメンドザさんが取り入れたい計画は、ローレンス・アヴェニューのレイアウト。駐車レーンを歩道に変え植樹をして日陰を作り、バリケードで保護された自転車レーンを設置し安全を確保する。この様な都市計画が適用されれば、アルバニーを含むシカゴの住宅地は良い環境作りを達成することができる。

メンドザさんは街づくりの改善の他に、都市計画には人と人とを結び付ける側面があるという。新しい友人達が都市計画分野に深い関心を持っている事が分かり、互いのヴィジョンを共有し、初めての親友となった。この事でメンドザさんは、一筋の希望の光と生き甲斐を見つけることができたという。

メンドザさんは近未来の夢について「都市計画の仕事に就き完璧な都市計画を作りたい。また、仕事を通じて新たな人と人との繋がりを創出したい」と語った。

 メンドザさんにはシカゴ姉妹都市インターナショナル大阪委員会より、大阪への往復航空券と2週間のホームステイが贈られた。

1位の受賞者、左よりウィリアム・ゴロンウォードさん、エレーニ・キャフェンテリスさん、ジャンビ・ソランキさん、右は奥田孝造JCCC渉外PR委員会副委員長

1位

 第3カテゴリーで1位となったウィリアム・グロンウォードさん(ミネソタ大学)のスピーチは「看護助手の経験」。

 グロンウォードさんは医療に携わり医師になりたいと思っていた。そのため、夏はいろいろな高齢者介護ホームで看護助手として働いた。仕事は排泄、食事、寝る準備など高齢者の日常生活を助ける事で、グロンウォードさんはその仕事が好きだったし、重要な仕事だと思っていた。ホームの看護師や助手の人々との仕事は興味深く、彼らから多くの事を学んだ。

 時間の経過につれ、人をもっと知りたいと思うようになり、高齢者介護ホームの軒数を絞った。これにより自分の仕事が以前よりも大きなインパクトを持つようになった。そして、COVID-19の院内感染が起こり、ホームの入居者は他の人々と接触を避けるために部屋にこもり、他の人々と話す事も殆どなくなった。グロンウォードさんもコロナテストや保護ガウンの着用、個室にいる入居者の世話などで忙しくなった。

 世話をした人の中にはCOVID-19による症状が悪化し、発症から僅か4日で亡くなった。グロンウォードさんが働いている時に亡くなるのは初めての事だったので、ショックを受けた。1週間半ほどで院内感染は終息し、また普通の生活が始まった。平凡な日々、非凡な日々、そしてまた平凡な日々を経験した事は、グロンウォードさんの記憶に深く残った。

 グロンウォードさんは看護助手の仕事を通じて、コロナウィルスの深刻さ、健康の大切さ、重病人やその家族のために働く事の大切さ、医療に関わる大切さと難しさなど、多くを学んだ。グロンウォードさんは「医療に携わる事は大変だと思いますが、好きな仕事なので将来に向けて続けて行こうと思っています」と語った。

 グロンウォードさんには米州住友商事より100ドルの商品券、パナソニック・コネクト・ノースアメリカよりテクニクス・ワイヤレス・イヤーバズが贈られた。

審査員の皆さんや柳淳総領事と記念写真を撮る26人の出場者

受賞者一覧

 グランド・プライズ:

    William Yang

姉妹都市大阪賞:

    Clive Benedict Mendoza

 1位:

    First Category, Jaanvi Solanki

    Second Category, Eleni Kafantaris

    Third Category, William Gronewald

2位:

    First Category, Ivy Garland

    Second Category, Dhruv Kapadia

    Third Category, Jenny Luu

3位:

    First Category, Lila Dondzik

    Second Category, Mike Schwab

    Third Category, Rui Fan

4位:

    First Category, Adriana Atanasova

    Second Category, Hailley Jalovecky

    Third Category, Dawon Chung

 JASC 賞:

    First Category, Emma BasaNemec

    Second Category, Nicole Shinkle

    Third Category, Junrong Qian

 IATJ 賞:

    First Category, Danzan Dashdemberel

    Second Category, Summer Machnik

JIC 賞:

    First Category, Naleyah Long-Smith, Ryu Velazquez

    Second Category, Joseph Redmond, Noah Smith, Nate Becker

    Third Category, Damon Triplett, Charlize Pedregosa

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