「『構造』と『電子の流れ』を制御して

新しい導電性材料をつくる

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高井淳朗氏は「『構造』と『電子の流れ』を制御して新しい導電性材料をつくる」について話した。
 プラスとマイナスの電荷は引き合うが、プラスとプラスが反発する事は良く知られている。しかし反発する力に引き合う力が勝れば、プラスとプラスは近く存在し安定した形として存在することができる。これは、π電子系分子が相互作用をすることで可能になる。
 π電子系分子とは、分子が横に広がったような平面の上下にπ電子雲という電子密度の高い雲の様なものがある。π電子雲は重なった方が安定するが、これが化学で言うところの「結合」。その結合が強ければ、プラス同士であっても近づいた形で安定して存在することができる。
 また、π系分子は一重結合と二重結合が交互に並ぶ構造を持ち、光エネルギーや電子の流れを司っている。電気を流す材料として使われている半導体はπ系分子の特性を実用化したもの。
 植物の光合成はクロロフィルというπ系分子が集まって、上手く分子を配列することで光エネルギーを化学エネルギーに変換している。
 光合成の一番大切な部分「反応中心」を拡大すると、π系分子が2つ重なったような「スペシャルペア」と呼ばれる構造をしている。
 電子が移動するとスペシャルペアも電荷を帯び、プラス同士となる。スペシャルペアは二量体構造と呼ばれ、電荷を帯びた時には電子的な相互作用が働いて、プラス同士にもかかわらず非常に接近して存在していることが分かった。しかし、植物のシステムがなぜ二量体になっているのかは謎だった。
 高井氏は生体システムから学んで発展させ、それを凌駕するような人工的なシステムを作りたいと話す。
 高井氏は二量体のモデル分子を作って謎の解明を目指した。クロロフィルの類縁体であるポルフィリン2個を接近させ、光を当てた場合の電子の流れを調べたところ、ポルフィリン1個の場合に比べ、非常に効率良く電子が移動することが分かった。この効率は2個になったから2倍という程度のものではなく桁違いの効率アップだという。植物は進化の過程で、効率の良い二量体構造を作り出しているのだった
 高井氏は更に、ポルフィリン3個の場合は更に桁が変わって千倍もの効率アップがあることを発見した。これを実用化できれば、効率の良い伝導性の材料を作ることができる。
 しかし、植物はπ系分子を非常に上手く配列しているが、人工的に上手く配列することは難しいという。分子をフレキシブルに繋いでも固く繋ぎ過ぎても、電子状態、光物性、機械的性質の制御ができなくなる。植物はタンパク質などを使って柔軟性とある程度の固さを上手くコントロールしているのだという。
 高井氏は回転運動をする分子の先にπ系分子を付けることを考え、縦には動かないが横には自由に動けるπ系分子を作ることに成功した。分子がバラバラな状態では相互作用は起きないが、何かの刺激を与えた場合には電気的な相互作用が働く状態を実現した。これを基盤に高井氏は、目に見えるような形で分子の動きをマクロに伝えるようなことをやりたいという。例えば物を掴む時に、筋肉がどの様なシステムで動いているのか分からない。これが解明されれば人工的に作ることも可能となる。
 高井氏は「基本的なコンセプトは、生体システムがいかに上手くできているか。そこから学んでそれを越えるような材料を作っていきたい」と語った。