ヒトの病気と進化
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中込滋樹氏は「ヒトの病気と進化」について語った。同氏はヒトの進化は有利な面だけでなく、病気もヒトの進化によってもたらされたという研究を行っている。例えばアフリカの特定地域で鎌形赤血球貧血症という病気が高頻度で存在するが、その地域ではマラリアの発症率も高い。鎌形赤血球貧血症の原因遺伝子はマラリアに対する耐性を持つという有利な側面があり、ヒトの集団の中に残ってしまった例ではないかという。

ヒトの進化について
 人類の起源は約500年前。猿人、原人、旧人、新人の4種に大別される。
・原人は北京原人、ジャワ原人などがある。
・旧人はヨーロッパに居住したネアンデルタール人などがある。
・新人はシュメール種とヒト(ホモサピエンス)。
 ヒトの起源に関しては2つの仮設がある。一つは「多地域猿属起源説」で、それぞれの地域で進化した原人がヒトに進化したという説。もう一つはアフリカ単一起源説で、原人や旧人は過去に絶滅していて、ヒトは一つの系統から派生した種であるというもの。最近の遺伝子の研究からアフリカ単一起源説が揺るがないヒトの進化のシナリオであると言われている。
 ヒトは約20 万年前にアフリカで誕生し、約10 万年前にアフリカの外へと出始めた。最初に海岸線を通ってオセアニアに移動したことが知られている。
 約4万年前にヨーロッパ、更にシベリアの方へ広がり、約4万年から3万年前の間に東アジアの方に広がった。
 最後に、当時陸続きだったベーリング海峡を通ってアメリカ大陸に渡り、約1万年前までには南アメリカ大陸に到達したことが知られている。
 ヒトは10 万年という短い期間に世界に広がり多様な環境に適応して来た。
 ゲノムとは遺伝子の総体のことで、2003 年に解読が完了した。ゲノムを構成しているのがDNAと呼ばれる分子で、ヒトには約30 億個ある。
 ヒトの病気に関する遺伝子、あるいはアリルがどこにあるかを示すマップを見ると、消化器系の疾患、循環器系の疾患、代謝形の疾患など、どこにでも疾患に関係する遺伝子があるのは驚くべき事だという。
 中込氏の着目点は、なぜそんなに多くの病気に関する遺伝子が人の中に残ってしまっているかということ。その視点で中込氏はクローン病がどうやってヒトの中で広がってしまったのかを調べてみた。
 欧米ではクローン病は、糖尿病や高血圧と同じぐらい患者数が多い。クローン病は日本でも過去30 年の間に患者数が増加している。クローン病は消化器官に慢性的な炎症が起きる病気で、基本的には治らない。
 遺伝的な要因だけでなく、最近の環境の変化がクローン病の発祥に強く関係しているのではないかと考えられている。
 これまでに分かっている遺伝要因は、免疫の機能に関する遺伝子に異常が起きて、腸内の細菌を敵として間違って認識し、常態細菌に反応してしまうと慢性的に炎症が起きると考えられている。
 中込氏の研究で、クローン病の遺伝的な要因が地域によって異なることが分かった。ヨーロッパで報告されたクローン病に関する8個の遺伝子の中で、日本人に関するものは1個だけだった。中国人や韓国人でも同様の結果が聞かれおり、ヨーロッパ人とアジア人ではその原因となる遺伝子が異なることが考えられるという。
 クローン病に関するヨーロッパの特異的な遺伝子はヨーロッパにしか存在しないことから、クローン病に関する遺伝子も昔は有利な側面があったが、今は環境が変わってしまって、病気にしてしまっているのではないかと言うことが一つの可能性として考えられるという。
 また、クローン病発祥の遺伝子は地域によって異なると考えられ、日本人であれば日本人に合った治療法や薬を開発する必要があるのではないかと語った。