植物の環境との戦い─安全な食糧を安定供給するために─ 日本語メインに戻る
 
「植物の環境との戦い─安全な食糧を安定供給するために─」について発表した舘田知佳氏の研究目標は、環境ストレスから農作物を護ること。
 植物も人間と同じように夏の高温、乾燥、低温、多雨による多湿、塩ストレス、害虫や病原菌による攻撃など様々なストレスにさらされている。舘田氏の研究は、植物を病原菌の攻撃からどのように護って行くかがメインテーマ。
 病原菌による攻撃は歴史を変えるような大きな出来事も引き起こしている。19 世紀にはアイルランドでジャガイモ飢饉が起きた。人口の20%が死亡し、多くのアイルランド人が米国に移住することになった。この歴史的イベントの原因は、ジャガイモ疫病菌だった。
 どうすれば植物が病原菌に対して抵抗性を誘導できるのか?
 バクテリアが植物内に侵入すると、植物が持っている受容体を介して様々な抵抗性経路が誘導される。バクテリアが持っているタンパク質や小さな分子を受容体が認識することによって、植物内で抵抗性因子が誘導される。
 病原菌を認識するようなタンパク質を過剰発現するような植物を作っておけば良いと思われるが、それは難しい。受容体は一つの種類の病原菌の、一つの因子しか認知できないからだ。
 病原菌は大きく分けて糸状菌、バクテリア、ファイトプラズマ、ウィルス、ウィロイドの5種類。
バクテリアの中で分かっているものだけで180 種類、ウィルスは分かっているものだけでも300 種類。一方、植物は20 万から30 万種類が存在し、ゲムノ解読が完了または完了間近なものは僅か8種類。病原菌を認識するようなタンパク質を過剰発現させるには途方もない研究が必要となる。
 それとは別に、病原菌に対して植物の抵抗性を強める物質として、古くから知られているサルチル酸がある。植物にかけると、どんな病原菌にも抵抗性を示す。
 サルチル酸はアスピリンや風邪薬など一般の薬にも入っており、人間に害がない。これを農薬として使うことができる。既にサルチル酸の類似物質が農薬として使われている。しかし、なぜサルチル酸が効くのか、この理由は分からなかった。
 この理由が最近の舘田氏らの研究で解明された。植物が持っているいろいろな受容体にサルチル酸が作用していることが分かり、サルチル酸をかけることによって、抵抗性を誘導することができることが分かった。これは大きなインパクトだという。
 今まではサルチル酸が効く理由が分からなかったため、農薬として大量にかけることが問題だった。高濃度のサルチル酸類似物質をかけると栄養が行かなくなって味が悪くなる。また、植物が死んでしまうこともある。今回の発見により、どの段階でどのぐらいの量をかければ農作物を病原菌から護ることができるかを知ることができるという。
 しかし、サルチル酸には未知の部分が多く舘田氏は「まだやらなければならない事がたくさんある」と語った。